「ダメ人間」の履歴書。

働くの大嫌いな俺様がイヤイヤ働いてきた記録。

第17章 熊手屋

またまた失業してしまった。
急いで仕事を見つけて働かなければいけないのだが、分かっちゃいるのたが、ヤル気が出ない。

通勤がかったるいというのが理由のひとつ。
近くても遠くても、かったるくて行く気力が削がれてしまう。

みんなよく通っていられるよなぁ。
ほんとに感心してしまう。

さて、通うのがかったるいという事で、次に見つけた仕事は内職。

熊手を作る仕事だ。
熊手?そう、熊手!
商売繁盛を祈願して壁に飾るあの熊手。

問屋に行って、パーツを購入する。
サイズがいろいろあるのは、みんなも知ってるだろう。
毎年、だんだんと大きくしていくのは有名だ。

なので、パーツもいちばん小さい「豆」から「特大」まで、各種ある。

これらパーツを購入して、グルーガン(ヒートガン)を使って接着していって、組み立てるのが今回の仕事だ。

子どもの頃、プラモ作りが得意だったので、どってことない作業だ。

完成したら、これを業者に買い取ってもらう。

大抵、とっぽい顔したお兄さんが来て、買い取っていく。

この仕事は珍しく、ちょっと長く続いた。

まぁ、結局辞めてしまったわけだが。

内職では生活できるだけの賃金を稼げないのだ。
はじめから分かっていた事なのだが、仕事がラクなのでしばらく続けてしまったのだ。

また明日から無職だ。


第16章 水道検針員

さて、また無職になってしまった俺は、当時の代表的求人誌「フロムエー」を購入した。

そして、自宅からほど近い場所の求人をみつけた。

水道検針員の仕事だ。
委託、出来高制と書いてあった。

この頃の俺は、委託ってのがよくわからなかったが、とりあえず行ってみればわかるだろうと、面接に行ってみる事にした。

後日、面接に伺うと、委託とは、社員でもバイトでもなく、個人事業主だと説明された。

説明を聞いても俺にはまだ半分程度しか理解できていなかったと思う。
無知だったのだ。

その日は登録だけして、仕事は明日からという事になった。

翌日、出勤すると、仕事の説明を受けた。
と言っても、仕事で使う機械の説明を受けた程度だったが。

バイクを与えられ、自分の受け持ちエリアへ向かう。

だが、このバイクが当時でも既に旧型だったヤマハのミント。
馬力がなくて追い越し車線なんて走れない。

2段階右折をしなくていい交差点でも、右車線を走れる馬力が無いから、左車線を走って2段階右折を余儀なくされる。

このポンコツバイクで現場へ。

現場では家、一軒一軒を廻り、水道メーターを読んで機械へ入力する。

戸建ての場合、水道メーターの場所はまちまちなので、機械に場所の説明が表示される。

その支持に従ってメーターを探すのだが、家主がメーターの位置を理解していなかったりすると、メーターの上に重量物を置いてしまったり、ひどい場合は盛土して庭を新調してたりする。

これが、本当に迷惑なのだ。
何しろこちらは委託なので、自分で家主と交渉して状況を改善してもらうしかない。
会社は何もしてくれない。

メーターを一つ読んで幾ら、という出来高制なので、受け持ちエリアはとにかく読むしかないのだ。

また、前回の読み取り数値に対して今回の読み取り数値が多すぎると、漏水の可能性が考えられるので、家主からこの2ヶ月間で水道を多く使ったか聴取しなければならない。

ある時など、マンションの一室の家主を訪ねたら、ヤ○ザの事務所だった事もあった。

絵に描いたようなヤの付く方の事務所って感じで、虎の毛皮がベタ〜っとなった敷物とか、日本刀とかが置かれていた。

さて、この仕事も続けて2週間もすると、先が見えてきてしまった。

単価が安過ぎるのだ。
稼ぐ為には数をこなすしかない。
しかし、そのためにはマンションが多いエリアを与えられないと、まず無理だ。

俺は後発だったからか、戸建ての多いエリアで、前述の通り、メーターが埋まっていたりして、一軒に掛ける時間が長過ぎた。

まるで稼げない。
俺は見切りをつけた。

現在でもこの会社は存在し、この検針員という仕事も存在しているみたいだが、どうやら近い将来、消えてしまう職業らしい。

メーターは人が読まなくても、コンピュータに送信されるようになるとか。

翌週、僅かながらだが賃金をもらった。
そして、また失業してしまった俺なのだった。



第15章 ベーグル屋

さて、また失業してしまった俺は近所を散歩していた。

今のようにインターネットで仕事を探せる時代ではなかったからだ。

求人誌の発売日以外は求人情報を得る手段が無かった。

あとはハローワークに行くくらいか。

ハローワークは自宅から遠かった。
交通費がもったいないと思っていた俺は、近所を歩いた。

足で探そうと思ったのだ。

当時は今よりも求人の貼り紙が多かった気がする。

ネットのような情報発信手段が無かったからだろうか。

そして、発見してしまった。

近所のパン工場の求人だ。

ベーグルを主に作っている工場だった。
当時の俺は恥ずかしながら、ベーグルという食べ物を知らなかった。

どうやら、ドーナツのような輪っか状のパンらしい。

仕事の内容などはどうでもよかった。

どうせ続かないのだ。
この頃になると、自分はダメ人間だという自覚が芽生えていた。

どうせすぐ辞めるに決まっているので、とりあえず働ければ何でもよかったのだ。

面接に行くとアッサリ採用。
この頃は、若いというだけで即決で採用だった。
中年になった今では、考えられない事だ。

翌日、初出勤。
白衣やら帽子やらで白無垢状態。

職場は女性しかいなかった。

正社員で、リーダーと呼ばれる若い女性が1人。
あとはパートの中年女性がたくさん。

しかし、この職場、女性ばかりが集まっているせいか分からんが、空気が鉄板のように固い。

歳下のリーダーを中年のパートたちが、ヨイショして、やたら気を遣っているというか。

愛想笑いが度々起こる職場に寒気を感じた。

おべっかばかりのパートがいるかと思えば、それを疎ましく思っているパートもいたりして、これが空気を固く重苦しくしている原因か。

仕事内容はと言えば、ベーグルを数個手に持ち、袋へ入れる。
ただそれだけ。

と、そんな時、俺はベーグルを床に落としてしまった。
「どうしましょう?」と訊く俺。

するとパートの女性は落としたベーグルを拾い上げ、パッパッと払って
「はい、これで大丈夫。」

なるほど、子供の頃に3秒ルールってのがあったが、
(3秒以内なら地面に落としても汚くないとする、子供独自ルール。実は科学的にも間違いではないらしい。)

ここでも3秒ルールは生きていたのだ!

まぁ、俺だったらここのベーグルは買わないな。

この会社も数日働いて辞めてしまった。
愛想笑いが寒々しく、ぎこちなさと、張り詰めた空気感が気持ち悪くて耐えられなかったのだ。



第14章 バス清掃。

さて、仕事を辞めまくってた俺はさすがに金欠でヤバくなってきた。

とりあえず何でもいいから働かなくては!

と思いつつも、その日は求人誌の発売日ではなく、求職活動は出来なかった。

今みたいにスマホでネットで簡単検索!なんて時代ではなかったのだ。

仕方がないので、ちと遠いがハローワークまで行く事にした。

その道中、観光バスの駐車場の前を通った時だった。

貼り紙を見つけた。
「観光バス清掃。急募」

とりあえずココでいいか。

事務所へ入っていき、話を訊いてみた。

なんでも清掃とは車内の掃除の事で、外側を洗う洗車とは別のものだそう。

掃除機をかけて、窓の内側を拭くだけだという。

「今夜から来てみたらどうだ?」
と、これまたアッサリ採用されてしまった。

アッサリ採用されるとロクな事にならないのは、ここ最近で経験済みだったので気にはなったが、金欠なので背に腹は代えられない。
今夜から働きに行く事にした。

仕事は夜からで4時間程度、年金受給者のパートだったり、サラリーマンの副業として働いている人が多いとの話だった。
ダブルワークってやつか。
世の中の人はよく働くものなんだなぁ。

働かない俺はダブルワーカーにはどんな風に見えるのだろう?

さて、仕事内容と言えば、ホントに掃除機と窓拭きだけだった。
こんな事は家で毎日している。
失業中は暇だから掃除だけはしていたのだ。

仕事は初日で覚えられた。
指導したのは年金受給者のジジイだった。

このジジイ、「俺はここで二番目に長い」とか「分からない事は○○さん(一番長い人)ではなく俺に訊け」とか何かと俺様一番的でウザイ。

老害か?

ラクだし家から近い事もあり、しばらく働いていたのだが、事件が起こる。

このジジイ、「今日は用事があるから先に帰る。タイムカードは帰る時に一緒に押しておいて。」

は?お前もパートだろうがよ。働かずにカネだけ貰うつもりかよ。

ムカついた俺は当然、事務所に言いにいったのだが、信じられないといった様子だった。

一応、本人に訊いてみるとの事だったが、事務所側は俺よりジジイを信頼しているようだ。

結局、ジジイは嘘を吐き通し、事務所はそれを信じたようだ。
俺の虚言、狂言だと思ったのか。

こんな糞どもと一緒に働きたくなかった俺は、仕事を辞めた。

ただ腹が立ったのでジジイの家のポストに拾った糞を詰めてやった。
糞ジジイにぴったりだ。

器物損壊とか何らかの犯罪になるのだろうが、もう時効だろう。




第13章 雑踏警備

さて、また失業してしまった俺だが、今度は警備会社で働いてみようと思った。

当時の俺は、警備員とやらが、どんな仕事をしているか分からなかったが、チョットその世界を見てみたかったのだ。

そういえば、高校の同級生が映画『ボディガード』を観て(ケビン・コスナーのやつね。)感化されて「ガードマン」の仕事を見つけたと言って喜々としていたが、それは違うだろうと思った。

さすがにボディガードとガードマンの違いくらいは俺でも分かる。

しばらく後に、その同級生と会った時、ガックリと肩を落としていたっけな。
イメージしていたのと、まるで違っていたのだろう。

さて、面接でまたしてもアッサリ採用された俺は研修を受ける事となった。(アッサリ採用された事に嫌な予感はしていた。)

研修時間は法律で決まっているとの事だったが、どう計算しても研修時間は短かった。
どうやら実際の現場で働いている時間も計上していたようだ。
このやり方が合法かどうかは知らないが。

研修では、警備業法を教わった。
法律の学習は楽しかった。

その後、制服を着せられ、敬礼やら回れ右やらをやらされたのだが、これは退屈だった。

なにしろ制服を着た自分がオモチャの兵隊のように思えて滑稽で恥ずかしかったのだ。
所詮は素人だ。厳しい訓練を受けた自衛官でも警察官でもないのだ。

まるで警察官ごっこだ。

それと護身術なんて講義もあった。
警棒を持って振るのだが、これは警察官の警棒と区別するために、警戒棒と呼ばれるとの事だった。(強度も劣るらしい。)
まるで、軍隊を自衛隊と言い換えているかのような言葉遊びだ。
くだらないと思った。

そして、現場ではこの警戒棒は持っていないと言う。
はて、じゃあ何の為に振らせたのか。
甚だ疑問の多い講義だった。

研修を受ける中で、警備業にも種類がある事を知った。
俺が採用された会社は雑踏警備の会社だった。
これはイベント会場とかの警備の事を指すらしい。

さて、座学を中心とした研修は今日だけで終わりで、明日からは現場だと言う。
実務的な事は何も教わっていないのだが。

現場初日、某大学へ向かった。
大学敷地内で行なわれるイベントの警備だそうだ。

俺は事務所へ入って挨拶をした。すると、
「声が小さい!」
とやたらデカイ声で怒鳴ってきたハゲ坊主の男がいた。
こいつがここの隊長(w)らしい。

俺は声が大きい奴が苦手だ。
声が大きいのは特技だと思っているのだろう。
いつから声が大きい奴が偉くなったのか?
そんなに良いか?大きい声。

その隊長は声の大きいのがどれだけ良いか、クドクドと語り始めた。

うぜぇ・・・。

「今日は初日だから見てるだけでいい。見て覚えろ。」
と言われたので、隊長の仕事ぶりを見学させてもらった。

だが、素人目に見ても仕事がデキル人には見えなかった。
どうしたよ隊長?声が大きい奴はデキル奴じゃなかったのかよ。

他の隊員を見てみても、教えられた事しか出来ない、自分で考えて判断して動けるやつは一人もいなかった。

自分で判断出来ないからすぐに隊長に頼る。
頼られた隊長は自分はデキルと勘違いする。
だが、隊長の判断は正しいとは思えなかった。

面接でロクに人を見ずに採用している会社だ。
他所ではとても採用されないような人間が集まっているのだろう。

つまり、こういった警備会社は他に行き場のない者たちのセーフティネットになっているのだろう。
警備会社は何を護っているのかと言えば、他に行き場のない落ちこぼれを護っているのだ。

当然、クライアントを護る事なんて出来ない。
自分を護るので精一杯だからだ。

お粗末な仕事ぶりを一日中見て、お腹いっぱいになってしまった俺は、その日のうちに退職してしまったのだった。



第12章 製本工場

またしても失業してしまった俺は、当時の定番求人情報誌『フロムエー』を買いに行った。

そして見つけたのが「誰にでもできる簡単な仕事。」だった。
どうやら製本工場で、出来上がった本を仕分ける仕事らしい。

場所も自宅から徒歩25分、自転車なら10分といったところか。

近いので、早速、面接に行ってみた。

担当者は軽く履歴書に目を通しただけで、
「いつから来れる?」と言った。
即決で採用だった。
しかも履歴書も持って帰ってくれと言う。

こんなアッサリ採用されて履歴書も不要とは。
こんな会社がある事を初めて知らされた。
「誰にでもできる仕事」とは誰でも働ける仕事という意味だったのか?

とりあえず採用された事に安堵し、今日は帰って明日からの仕事に備えようと思った。

あくる日、工場へ行くとロッカールームへ案内された。だが・・

・・・、臭い!すごく臭い!!
何と言ったらいいのか・・鼻が曲がりそうだ。
いや、鼻どころか、眼にしみる!

見ると、周りにいるオヤジ達は一見、浮浪者に見える。
いや、日雇い労働者ってやつか?
ほぼほぼホームレスと変わらない容姿だ。

担当者からはロッカーの鍵は必ず施錠してくれと言われた。
実際、盗難はしょっちゅうだと言う。

そりゃ、あんな簡単な面接で即採用だから集まる人間も知れてるって事か。

で、仕事は。って言うと・・。
ベルトコンベアに乗って流されてくる伝票を見て、書かれている冊数の本をベルトコンベアに乗せる。
ただこれだけ。

確かに「誰にでもできる簡単な仕事。」だ。

だが俺は5分で飽きてしまった。
簡単すぎてつまらないのだ。

それに稼働中はずっと立ち続けなくてはならない。
移動は許されないのだ。
トイレにも行けない。
ロボット役に徹しなければならない。

これが「誰にでもできる簡単な仕事。」の正体だった。
確かに誰にでもできる。だが、
誰にでも務まるわけではないだろう。
俺には楽しくもなんともない。

さて、ここの職場、稼働が終わると電気が消されて真っ暗になるのだが、この時、本を盗むやつがいた。

当時は手荷物検査は実施されておらず、毎日チョット盗んでは、古本屋に売りに行っていたらしい。

まぁ、ロクに身分確認もせずに採用しているから、まともじゃない人間もいるのだろう。

そして、驚いた事に、給料は毎日手渡しだった。
当時は今ほど銀行振込は一般的ではなかったと思うが、毎日手渡しとは・・。
所謂、「取っ払い」ってやつか。

結局、ここの会社もすぐに辞めてしまった。

仕事は簡単すぎて退屈だし、何よりロッカールームが臭い。
俺は潔癖症ではないと思っていたが、どうやら軽い潔癖症のようだ。

そして、ここの浮浪者ようなオヤジにはなるまい。と思っていたのだが、これを書いている現在、俺は失業中である。
浮浪者の一歩手前で踏みとどまっている状態だ。

天職など無い。あるのは転職だけだ。


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第11章 床清掃

また失業してしまった俺は、とうとう家賃を払えなくなってしまった。

家具や家電を売り払い、カネに換えた。と言っても小銭にしかならなかった。

リサイクル屋に来てもらったのだが、電話では出張査定無料とか言っていたのに、それは成約した場合であり、成約しなかったら出張費8千円とか言いやがった。
つまり、電話した時点で客は損して、こいつらは儲かるシステムなのだ。

屋号は忘れてしまったが、パワー何とかとか言ったか?以来、俺はパワーと付く社名はどんな業種であっても拒否反応が出る。

で、家財道具を処分した俺は、しばらく女性の家を転々としたあと、親戚の家に転がり込んだ。

さて、済む場所こそ何とか確保したものの、さすがに日中、家にいるのは気まずい。

そこで床清掃の仕事をする事にした。
そこは独立したばかりの若い会社で、社長も今の俺なんかより全然、若かった。

その若い社長と二人で現場に行く事になった。
要は一人親方みたいなものだったのだろう。
俺以外の従業員は見た事がなかった。

仕事はワックスを撒いて(思いのほかタップリと撒いた。床が溺れるくらい。)、ポリッシャーで磨く。というもの。

このポリッシャーがクソ重い。
指がちぎれるんじゃないかと思った。

ポリッシャーの操作も初心者には難しかった。
手前や、奥に圧をかけると、それぞれ左や右へ動くのだが、行きすぎて壁に衝突させたりしてたな。

ここもチョット通って、辞めてしまった。

社長の吉田(仮名)から濡れ衣を着せられたのだ。
車に置いてあった小銭が無くなったとか何とか。
誰が盗るか、そんなモン。

このケチくさい社長に愛想尽かして辞めてしまった。

このケチ社長、働いた分の日給もまともに払わなかったな。

今も時々思い出すよ、あの社長どうしてっかな?とか。

死ぬにはまだ若いし、どこかで生きてんだろうけど。
まだ会社続けてるんだろか?
当時の屋号の会社は存在しないようだが。