第11章 床清掃
また失業してしまった俺は、とうとう家賃を払えなくなってしまった。
家具や家電を売り払い、カネに換えた。と言っても小銭にしかならなかった。
リサイクル屋に来てもらったのだが、電話では出張査定無料とか言っていたのに、それは成約した場合であり、成約しなかったら出張費8千円とか言いやがった。
つまり、電話した時点で客は損して、こいつらは儲かるシステムなのだ。
屋号は忘れてしまったが、パワー何とかとか言ったか?以来、俺はパワーと付く社名はどんな業種であっても拒否反応が出る。
で、家財道具を処分した俺は、しばらく女性の家を転々としたあと、親戚の家に転がり込んだ。
さて、済む場所こそ何とか確保したものの、さすがに日中、家にいるのは気まずい。
そこで床清掃の仕事をする事にした。
そこは独立したばかりの若い会社で、社長も今の俺なんかより全然、若かった。
その若い社長と二人で現場に行く事になった。
要は一人親方みたいなものだったのだろう。
俺以外の従業員は見た事がなかった。
仕事はワックスを撒いて(思いのほかタップリと撒いた。床が溺れるくらい。)、ポリッシャーで磨く。というもの。
このポリッシャーがクソ重い。
指がちぎれるんじゃないかと思った。
ポリッシャーの操作も初心者には難しかった。
手前や、奥に圧をかけると、それぞれ左や右へ動くのだが、行きすぎて壁に衝突させたりしてたな。
ここもチョット通って、辞めてしまった。
社長の吉田(仮名)から濡れ衣を着せられたのだ。
車に置いてあった小銭が無くなったとか何とか。
誰が盗るか、そんなモン。
このケチくさい社長に愛想尽かして辞めてしまった。
このケチ社長、働いた分の日給もまともに払わなかったな。
今も時々思い出すよ、あの社長どうしてっかな?とか。
死ぬにはまだ若いし、どこかで生きてんだろうけど。
まだ会社続けてるんだろか?
当時の屋号の会社は存在しないようだが。