第23章 イチゴ農家
さて、また俺は某県に来ていた。
今回は田舎バイトだ。
この頃の俺は田舎暮らしとかに興味を持ち始めていた。
都会育ち、都会ッコの俺には田舎への漠然とした憧れがあった。
田舎の人からすれば、「何言ってんだ」って感じだろうが、所詮、人は無いものねだりなのだ。
都会に無い何かがあると思いこんでいた。
で、田舎を知る足掛かりとして、農家でバイトしてみた。
時季としては、これから苗を植える頃だったのだろう、ハウスの中は土だけで、何も植わってなかった。
これから、土を殺菌するのだと言う。
同じ土に同じ作物を植え続けると、連作障害を起こすとかで、殺菌が必要なんだとか。
で、殺菌に使うのが、かのナチスが開発した毒ガス、チクロンBと同様の成分の農薬だとかで、これを畑に撒くのだが、ガスマスクも何もしない。
安全対策なんて何もないのが、時代なのだろう。
この毒ガス(農薬)とても苦しい。
目はもちろん開けていられない。
そして、呼吸ができない。
この時、人間は空気(酸素)しか吸えないという事に気づいた。
呼吸しようとするのだが、いや、肺は動いているのだ。
胸が膨らんだりしぼんだりする感覚はあるのだ!
だが、空気を吸っているという感覚は全くしない!
呼吸しているつもりなのに、苦しい。
目も見えない状態で、ハウスの外を目指して走った。
外の空気を吸う。
やっと呼吸の感覚が戻った。
始めての田舎体験は、「死にそうになった。」だった。