「ダメ人間」の履歴書。

働くの大嫌いな俺様がイヤイヤ働いてきた記録。

第15章 ベーグル屋

さて、また失業してしまった俺は近所を散歩していた。

今のようにインターネットで仕事を探せる時代ではなかったからだ。

求人誌の発売日以外は求人情報を得る手段が無かった。

あとはハローワークに行くくらいか。

ハローワークは自宅から遠かった。
交通費がもったいないと思っていた俺は、近所を歩いた。

足で探そうと思ったのだ。

当時は今よりも求人の貼り紙が多かった気がする。

ネットのような情報発信手段が無かったからだろうか。

そして、発見してしまった。

近所のパン工場の求人だ。

ベーグルを主に作っている工場だった。
当時の俺は恥ずかしながら、ベーグルという食べ物を知らなかった。

どうやら、ドーナツのような輪っか状のパンらしい。

仕事の内容などはどうでもよかった。

どうせ続かないのだ。
この頃になると、自分はダメ人間だという自覚が芽生えていた。

どうせすぐ辞めるに決まっているので、とりあえず働ければ何でもよかったのだ。

面接に行くとアッサリ採用。
この頃は、若いというだけで即決で採用だった。
中年になった今では、考えられない事だ。

翌日、初出勤。
白衣やら帽子やらで白無垢状態。

職場は女性しかいなかった。

正社員で、リーダーと呼ばれる若い女性が1人。
あとはパートの中年女性がたくさん。

しかし、この職場、女性ばかりが集まっているせいか分からんが、空気が鉄板のように固い。

歳下のリーダーを中年のパートたちが、ヨイショして、やたら気を遣っているというか。

愛想笑いが度々起こる職場に寒気を感じた。

おべっかばかりのパートがいるかと思えば、それを疎ましく思っているパートもいたりして、これが空気を固く重苦しくしている原因か。

仕事内容はと言えば、ベーグルを数個手に持ち、袋へ入れる。
ただそれだけ。

と、そんな時、俺はベーグルを床に落としてしまった。
「どうしましょう?」と訊く俺。

するとパートの女性は落としたベーグルを拾い上げ、パッパッと払って
「はい、これで大丈夫。」

なるほど、子供の頃に3秒ルールってのがあったが、
(3秒以内なら地面に落としても汚くないとする、子供独自ルール。実は科学的にも間違いではないらしい。)

ここでも3秒ルールは生きていたのだ!

まぁ、俺だったらここのベーグルは買わないな。

この会社も数日働いて辞めてしまった。
愛想笑いが寒々しく、ぎこちなさと、張り詰めた空気感が気持ち悪くて耐えられなかったのだ。