第16章 水道検針員
さて、また無職になってしまった俺は、当時の代表的求人誌「フロムエー」を購入した。
そして、自宅からほど近い場所の求人をみつけた。
水道検針員の仕事だ。
委託、出来高制と書いてあった。
この頃の俺は、委託ってのがよくわからなかったが、とりあえず行ってみればわかるだろうと、面接に行ってみる事にした。
後日、面接に伺うと、委託とは、社員でもバイトでもなく、個人事業主だと説明された。
説明を聞いても俺にはまだ半分程度しか理解できていなかったと思う。
無知だったのだ。
その日は登録だけして、仕事は明日からという事になった。
翌日、出勤すると、仕事の説明を受けた。
と言っても、仕事で使う機械の説明を受けた程度だったが。
バイクを与えられ、自分の受け持ちエリアへ向かう。
だが、このバイクが当時でも既に旧型だったヤマハのミント。
馬力がなくて追い越し車線なんて走れない。
2段階右折をしなくていい交差点でも、右車線を走れる馬力が無いから、左車線を走って2段階右折を余儀なくされる。
このポンコツバイクで現場へ。
現場では家、一軒一軒を廻り、水道メーターを読んで機械へ入力する。
戸建ての場合、水道メーターの場所はまちまちなので、機械に場所の説明が表示される。
その支持に従ってメーターを探すのだが、家主がメーターの位置を理解していなかったりすると、メーターの上に重量物を置いてしまったり、ひどい場合は盛土して庭を新調してたりする。
これが、本当に迷惑なのだ。
何しろこちらは委託なので、自分で家主と交渉して状況を改善してもらうしかない。
会社は何もしてくれない。
メーターを一つ読んで幾ら、という出来高制なので、受け持ちエリアはとにかく読むしかないのだ。
また、前回の読み取り数値に対して今回の読み取り数値が多すぎると、漏水の可能性が考えられるので、家主からこの2ヶ月間で水道を多く使ったか聴取しなければならない。
ある時など、マンションの一室の家主を訪ねたら、ヤ○ザの事務所だった事もあった。
絵に描いたようなヤの付く方の事務所って感じで、虎の毛皮がベタ〜っとなった敷物とか、日本刀とかが置かれていた。
さて、この仕事も続けて2週間もすると、先が見えてきてしまった。
単価が安過ぎるのだ。
稼ぐ為には数をこなすしかない。
しかし、そのためにはマンションが多いエリアを与えられないと、まず無理だ。
俺は後発だったからか、戸建ての多いエリアで、前述の通り、メーターが埋まっていたりして、一軒に掛ける時間が長過ぎた。
まるで稼げない。
俺は見切りをつけた。
現在でもこの会社は存在し、この検針員という仕事も存在しているみたいだが、どうやら近い将来、消えてしまう職業らしい。
メーターは人が読まなくても、コンピュータに送信されるようになるとか。
翌週、僅かながらだが賃金をもらった。
そして、また失業してしまった俺なのだった。